学生服業界の流通に
「三方よし」の
改革をもたらす

ECプラットフォーム「学校生活」

学生服に特化したECプラットフォーム「学校生活」。伊藤忠商事株式会社が立ち上げ、伊藤忠ファッションシステム株式会社がディレクションを担当。JGS株式会社が販売代理店として参画し、2021年にサービスインした。デジタル化を通じて学生服業界の課題を解決するこのECについて、3人のキーパーソンによる鼎談を実施。さまざまなテーマで「学校生活」について話してもらった。

出席者(敬称略・順不同)

伊藤忠商事株式会社
繊維カンパニー ワークウェア課長
山下眞護

入社以来ユニフォームビジネスに従事。古くより学生服用生地の販売や製品の海外生産といったものづくりビジネスを展開して来た当課において、2020年8月に、DXを取り入れた「学校生活」をリリース。

伊藤忠ファッションシステム株式会社
マーケティング開発第1グループ プロジェクトマネジャー
佐部真紀子

主にブランディングやマーケティングに関するコンサルティング業務を行う伊藤忠商事のグループ会社でEC事業に従事。「学校生活」の企画から設計、運用までを手掛ける。

JGS株式会社
代表取締役
土屋隆弘

埼玉県さいたま市に本社を構え、学生服や学校指定物品の販売、学生食堂の経営など、学校内での包括的なサービスを提供。「学校生活」では学生服の販売代理店として携わる。

01

「学校生活」誕生のきっかけは
販売方法が進化していなかったこと

「学校生活」の概要を教えてください。

山下
学用品学生服の注文処理から決済や出荷、配送までを一括して行えるECプラットフォームです。伊藤忠商事が学生服を販売しているわけではなく、JGSさんのような販売代理店に出店していただいています。
土屋
私たちはECプラットフォームの企画の段階から関わらせてもらいましたが、「学校生活」の構想はどのような経緯から生まれたのですか。
山下
繊維カンパニーにデジタル戦略室ができ、当時は「プロダクトアウトからマーケットインへ」というスローガンを掲げていました。それと伊藤忠グループの企業理念「三方よし」を考えたときに、DXを活用すれば学生服業界においても何か新しい提案ができるのではないかと思ったのです。もともとは当課に学生服に携わっている者がいて、彼の娘さんが彼の母校である中学校へ入学した際に、昔と全く変わらない学生服の売り方をしていたのを見て、デジタル化できないかと思ったのがきっかけです。
佐部
私も娘が小学校へ入学した際、体操着などを購入するために指定されたのが布団や婦人服を販売する昔ながらの商店でした。店主は高齢の女性で、体操着について熟知されていなかったので少し不安だったのを覚えています。かつては丁寧できちんとした商売をしていたのに、後継者がいないなどの理由で、今はそれができていない印象を受けました。
土屋
そもそも学生服や学校指定物品の流通形態が、いびつ(特殊?)だったのです。販売代理店が開催する採寸会では行列ができ、対面販売ゆえに販売とその後の受発注に手間と時間がかかっていました。
山下
学生服が持つ納期には特別な意味があり、春に入学式を迎える保護者と生徒にとって、納期遅れという選択肢はありえませんが、学生服業界側は毎年ギリギリまで同じ課題に向き合っている状況ではないでしょうか。
佐部
学生服の販売は依然としてEC化されず、販売側の環境は全然進化していなかったことが不思議でした。
土屋
自分たちの流儀で販売を行い、人を介さないと売れないやり方に問題があったのです。だから私の会社では、ヒューマンエラーをなくすためにもペーパーレスを推進。いろいろな商慣習もなくして、新しい方法を模索してきました。そして、コロナ禍が始まった年に私たちが考えた販売システムが完成しました。しかし、学生服業界の商慣習に異を唱えていた私は、すっかり異端児扱いされていました(笑)。

02

ヒューマンエラーがなくなり
納期遅れの問題改善にも貢献

「学校生活」はどのようにカタチにしていったのですか。

山下
当初は、このサービスをあらゆる学生服業界の方々にご利用いただく構想でした。どう進めるべきか悩んでいた頃、JGSさんが新しい方法で学生服を販売するという新聞記事を発見。すぐにアプローチしたところ、土屋社長は熱心に話を聞いてくださり、お互いの理解を深めるうちにJGSさんにサービスをご利用いただくことになりました。
土屋
私は学生服業界で孤軍奮闘していましたから、伊藤忠商事さんから連絡をもらったときは、やっとサポートしてくれる人が現れたと胸を撫でおろしました。学生服業界のあらゆる弊社のノウハウをレクチャーさせてもらい、サービスの内容が固まっていきました。重視したのは、一度もECで買い物をしたことがない人も含めて誰でも使いこなせることです。開発中はお互いの意見をぶつけ合い、それこそ喧々諤々の様相でした。
佐部
一般的なECとは異なる発想をしなければいけないのが新鮮でした。例えば確実に購入してくれるのが分かっているので、購入率を上げる工夫は必要とされません。一方で、A学校の制服をB学校の生徒が買えるようではいけませんので、部外者は入れないようにセキュリティが機能する設計にしなければいけません。
山下
大変だったのは、私たちはずっとものづくりだけを担当していたため、マーケットの情報が皆無だったことです。ですから、土屋社長から「こういうことがクレームに繋がる」とか「こんな機能がないと成り立たない」といったことをアドバイスいただくたびに、そうなのかって気付かされることばかりでした。
佐部
入学時には、一度に多数のものを買わなければいけません。そこで、それぞれの人に対して、買わなければいけないものを一覧で表示する機能を開発。ソックスは3つまとめて買った方がいいとか、そういったことも含めて申し込めるようにしました。今まで対面で買っていた人でも、ストレスなく操作できるユーザビリティもこだわったところのひとつです。
山下
ECで注文いただくことで、運用面では、記入ミスや集計ミスを防ぐといった効率化を実現できました。
土屋
そのことによって、デリバリーまでのすべての工程が一連の流れになっていますので、その間に人の手が入ることはありません。そのため時間が非常に短縮され、ヒューマンエラーがなくなるという意味では大きな改善だと思います。生産を開始するスタートが早いほど、納期遅れのリスクも低減させることができます。

03

学校生活に関わる全サービスを
提供できるサイトに育てたい

「学校生活」は今後どうなっていきますか。

土屋
採寸会の時期は、在校生のクラス編成や新入生を迎える準備などで先生方はとても忙しい状況です。そんなときに学校で採寸会が行われると、スケジュールは多忙を極めます。「学校生活」は先生方の働き方改革を促進するシステムにもなります。
山下
佐部さんの話に出てきた商店を兼ねた販売代理店についても、おそらく後継者不足で悩まれていたり、人の雇用が難しかったり、さまざまな問題を抱えられているところもあると思います。販売代理店が埋めて欲しいなと思われる部分を補完することも「学校生活」の役目だと思います。
佐部
学校の先生方は授業以外にいろいろなことをやらなければならず、本来の仕事である教育に注力できないことが問題になっていると聞きます。そんなときに、「手間がかかって困っていることがあるから、解決してくれない?」と、学校や先生方から頼られる存在になるのも有意義なことなのかもしれません。
土屋
「学校生活」は内容が古くなればリニューアルできますので、保護者の方々の満足度も上げることができます。実際に、上のお子さまが従来の方法で購入された保護者から、下のお子さまのときに「学校生活」を利用された際に、「さすがですね」とお褒めいただいたことがあります。現在は学生服や学校指定物品の販売だけですが、将来はサービスの内容がもっと広がっていけばいいと思っています。
山下
このサービスに「学校生活」と名付けた経緯は、土屋社長がおっしゃっていた通り、いつかは学校生活に関わるすべてのサービスを提供できたらいいなと思ったことがきっかけです。保護者の方々に褒めていただいたことを考えると、大きなチャンスを感じています。
佐部
現状、保護者の方々が利用するのは学生服を購入するタイミングだけですので、部活で必要なものを扱うといったことも必要です。そして、学校側の情報もここで確認できるようにして、保護者と生徒が常にチェックしたいと思えるサイトにしていきたいです。
土屋
将来は学校内の食堂や授業料、写真撮影、修学旅行など、お金のやり取りがあるすべてのものを「学校生活」が包括的にサービスとして提供できれば、その学校に寄り添った形へ進化していくでしょう。先生方には教育にしっかり目を向けてもらい、サービスに関わることは「学校生活」が担う。そんな存在になれば利用価値も大きくなるのではないかと思います。
山下
そうですね。目指すのは学生服販売ECではなく、学校生活の支援サービス事業体になること。課題の解決はビジネスになりますので、「学校生活」をそんなサービスにしていくのが理想です。
本日はありがとうございました。

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